第5回 「対話」のリアリティーーあなたは今、誰と話していますか?
面接で、準備してきた答えを思い出すことに一生懸命になっていませんか。そのとき、あなたが向き合っているのは、目の前の面接官でしょうか。それとも、答えを準備したときの「過去の自分」でしょうか。面接は、覚えてきた答えを発表する場ではありません。今、目の前にいる相手と向き合い、言葉を交わす場なのです。
1.自分の番が近づいた途端、聞こえなくなった
以前、ある大学生から、就職活動のグループ面接での出来事を聞いたことがあります。
7人ほどの応募者が横一列に並び、面接官の質問に順番に答えていく形式だったそうです。
彼女は、ほかの応募者の話が面白くて仕方がありませんでした。
「へえ、そんな考え方があるんだ!」
そんな気持ちで、話している人の顔をじっと見つめ、何度もうなずきながら聞いていました。
ところが、自分の一つ前の人が話し始めた途端、様子が変わります。
「次は私の番だ。何を話そう?」
頭の中が、自分の答えを考えることでいっぱいになってしまったのです。
それまで夢中になって聞いていたのに、前の人の話はほとんど耳に入ってきません。
その変化は、面接官にも分かるほど、あからさまだったようです。
そして、いよいよ彼女の番。
面接官は、予想外の質問をしました。
「では、今、前の人が話したことについて、あなたの意見を聞かせてください」
彼女は焦りました。
よりによって、ほとんど聞いていなかった話について質問されたのです。
「絶対に落ちた」
そう思ったそうです。
ところが、結果は合格。
しかも、「聞き上手」だったことを評価されたと聞いたそうです。
この話を聞いたとき、私は面白いなと思いました。
彼女は、面接官に「私は人の話をよく聞いています」とアピールしようとしていたわけではありません。
本当にほかの人の話が面白かったから、自然に耳を傾けていたのです。
その姿勢が、面接官にも伝わっていたのでしょう。
2.聞いているつもりでも、聞いていない
このエピソードには、もう一つ興味深いところがあります。
彼女は、自分の番が近づいた瞬間、それまでできていたことができなくなりました。
人の話を聞くことです。
それまで意識は、話している相手に向いていました。
でも、自分の番が近づくと、
「何を答えよう?」
「うまく話せるだろうか?」
ということに頭がいっぱいになってしまったのです。
これは、面接ではよく起こることではないでしょうか。
面接官が質問している途中で、
「あ、この質問は練習したことがある」
「最初にあの話をして、次にこれを言おう」
と、頭の中で答えを組み立て始める。
すると、面接官がその後に何を言っているのか、十分に聞けなくなってしまいます。
相手の話を聞くことと、自分が何を話すかを考えること。
この二つは、似ているようで、意識の向いている先が違います。
もちろん、答えを考えることは必要です。
でも、自分の答えばかりに気を取られていると、目の前の相手が見えなくなってしまいます。
3.暗記した答えは、誰に向かって話している?
面接の準備では、よく聞かれる質問への答えを考え、何度も練習することがあります。
志望理由、探究活動、高校時代に頑張ったこと。
自分の考えを整理しておくことは、とても大切です。
でも、その答えを一字一句暗記して、本番で正確に再現しようとすると、どうなるでしょうか。
面接官から質問されると、頭の中で準備した文章を探し始めます。
「あの答えは、どういう順番だったかな?」
「次は何を言うんだったかな?」
そして、思い出した文章を、できるだけ間違えないように話す。
そのとき、あなたは誰と向き合っているのでしょうか。
目の前にいる面接官でしょうか。
それとも、家で一生懸命に答えを考えていた、過去の自分でしょうか。
暗記した答えを再現することに集中していると、目の前の面接官ではなく、過去の自分と対話しているような状態になってしまいます。
せっかく目の前に、あなたの話を聞き、質問してくれる人がいるのに、その人とのやり取りよりも、過去に自分が書いた文章を思い出すことに集中してしまうのです。
もちろん、面接の準備が悪いわけではありません。
準備した考えを持っていくことと、準備した文章をそのまま再現することは違います。
自分の経験や考えが整理されていれば、質問の仕方が変わっても、その場で自分の言葉を使って答えることができます。
4.面接官は、意外と変化球が好き
以前、総合商社に勤める方から、面白い話を聞いたことがあります。
その方によると、面接官の中には、あえて的外れな質問をする役割の人がいるのだそうです。
まるで天然ボケのような、予想もしなかった質問。
意外にも、優秀な学生ほど、そんな質問に戸惑うことがあるといいます。
それまで論理的に、きちんと答えていた学生が、突然、言葉に詰まってしまう。
でも、面接官が見たいのは、そこで正解を答えられるかどうかではありません。
予想外の質問をどう受け止め、その場で自然な対話につなげられるか。
その瞬発力やコミュニケーション力を見ているのだそうです。
もちろん、すべての面接官がそうした質問をするわけではありません。
でも、これは面接の本質を考えるうえで、興味深い話だと思います。
準備していなかった質問に、すぐに答えられなくてもかまいません。
少し考えたり、質問の意味を確認したりしてもよいでしょう。
大切なのは、正解を探すことに必死になるのではなく、目の前の相手とのやり取りを続けることです。
面接官が見ているのは、「何を話したか」だけではありません。「どう話す人なのか」も見ているのです。
対話のリアリティとは
面接の準備は大切です。
でも、準備した答えを正確に再現することだけが、面接ではありません。
相手の質問を聞き、その意味を考え、自分の経験や考えをもとに答える。
過去の自分が用意した答えではなく、今の自分が、目の前の相手と言葉を交わす。
そこに、対話のリアリティが生まれるのではないでしょうか。
次回|第6回 緊張の「リアリティ」
緊張している自分を、隠さなければいけませんか?
次回は、面接で誰もが経験する「緊張」と、どう向き合うかについて考えます。
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Educational Enhancement(EE)
探究学習・総合型選抜・AIと教育を中心に、
学習者の思考と表現のあり方を研究・発信しています。
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🎓 【本記事の執筆・監修】
- 代表研究員:元早稲田大学准教授・教育工学博士(米スタンフォード大・オレゴン大修士 / 東工大博士)
- 顧 問:大学名誉教授(コミュニケーション学専門)
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