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「リアリティ」を伝える面接――AI時代の総合型選抜(4)言葉のリアリティ


第4回 言葉の「リアリティ」ーーあなたの見ている世界は、相手にも見えていますか?

面接で大切なのは、自分の経験や考えを一生懸命に話すことだけではありません。自分には鮮明に見えている出来事も、相手には見えていないかもしれません。何を話し、どんな言葉を選べば、その場面が相手にも見えてくるのでしょうか。「自分の言葉で話す」とは、相手にも自分の世界を見てもらうことなのです。

面接で、自分の経験や考えを一生懸命に話したのに、相手にうまく伝わらなかった。

そんな経験はありませんか。

自分では十分に説明したつもりでも、相手には何が起きたのか、なぜそう感じたのかが伝わっていないことがあります。

それは、話し方が下手だからとは限りません。

自分には見えている世界が、相手には見えていない。

そのことに気づいていないのかもしれません。

今回は、自分の経験や考えを相手にリアルに伝えるための「言葉のリアリティ」について考えます。

以前、大学で学生たちに「忘れられない思い出」をテーマに、3分間のスピーチをしてもらったことがあります。

ある男子学生が、こんな話をしました。

「昨日、友達と缶蹴りをしました。楽しかったです」

そして、終了。

3分間のスピーチのはずが、たったこれだけです。

「えっ、それで終わり?」

あまりに短いスピーチに驚いて、いくつか質問してみました。

「どうして楽しかったの?」

「子どもの頃の缶蹴りとは、何が違ったの?」

「何人で遊んだの?」

すると、こんな答えが返ってきました。

「子どもの頃よりキック力が断然上がっていて、缶がものすごく飛ぶんです。5人でやりました」

なるほど! 大学生になって缶蹴りをすると、そんなことが起こるのか。

思わず面白くなって、さらに質問しました。

「何メートルくらい飛んだの?」

「どのくらいの時間、遊んでいたの?」

質問を重ねるうちに、話はどんどん具体的になっていきました。

最初は「缶蹴りをして楽しかった」という一言だけ。

でも、話を聞いていくうちに、大学生5人が夢中になって缶蹴りをしている光景が浮かんできました。

私が今でもこの学生のことを覚えているのは、最初のあまりにあっさりしたスピーチと、「子どもの頃よりキック力が断然上がっていた」という意外な発見の落差が面白かったからです。

彼の頭の中には、最初からその光景があったのです。

ただ、それを聞いていた私たちには見えていませんでした。

質問を通して具体的な場面が言葉になったとき、初めて彼が経験した楽しさをリアルに想像できたのです。

この学生にとって、缶蹴りが楽しかったことは間違いありません。

おそらく、友達と遊んでいた場面を思い浮かべながら、「楽しかった」と話したのでしょう。

でも、聞いている側には、その楽しさが伝わりませんでした。

なぜなら、私たちはその場にいなかったからです。

何人で、どんな場所で、どんなふうに遊んだのか。

そして、何がそんなに面白かったのか。

それを知らなければ、同じ場面を思い描くことはできません。

これは、面接でも同じです。

例えば、探究活動について、

「地域の人たちと交流し、多くのことを学びました」

と話したとします。

本人の中には、出会った人の顔や、交わした言葉、そのとき感じたことが浮かんでいるかもしれません。

でも、面接官には見えません。

どんな人と、どんな場面で、何を話したのか。

何に驚き、何を学んだのか。

自分にとっては忘れられない経験でも、相手にとっては初めて聞く話なのです。

だからこそ、自分の思いを伝えるだけでなく、相手がその経験をリアルにイメージできるように話す必要があります。

では、経験したことを細かく、すべて説明すればよいのでしょうか。

もちろん、そうではありません。

缶蹴りの話でも、遊んだ場所までの道順や、その日の天気、友達全員の名前を説明する必要はないでしょう。

一方で、「子どもの頃よりキック力が上がっていて、缶がものすごく飛んだ」という話は、ぜひ聞きたいところです。

なぜなら、そこに彼が感じた面白さがあるからです。

つまり、何を話し、何を省くか。

この取捨選択が大切なのです。

面接には時間があります。

限られた時間の中で、自分の経験や考えを相手に伝えるためには、必要な情報を選ばなければなりません。

そのときの判断基準は、

「相手が自分の経験や考えを理解するために、何を知る必要があるか」

ということです。

また、話す順序も重要です。

まず、何についての話なのか、全体像を簡潔に伝える。

次に、必要な背景や状況を説明する。

そして、具体的な出来事を紹介し、自分が何を感じ、どう考えたのかにつなげていく。

例えば、缶蹴りの話なら、

「大学生になって久しぶりに友達5人で缶蹴りをしたら、子どもの頃とはまったく違う面白さがありました」

と話し始めるだけでも、聞き手は「何が違ったのだろう?」と興味を持つでしょう。

そこから、キック力の話をすれば、その面白さがさらに伝わります。

大切なのは、情報をたくさん並べることではなく、相手が理解できる順序で話を組み立てることです。

大学で学生たちのスピーチや面接のトレーニングをしていたとき、話を聞いていて面白いと感じる学生がいました。

そういう学生は、言葉選びが上手でした。

独特の語彙や、ちょっとしたユーモアのセンスがあって、何気ない出来事でも思わず話に引き込まれます。

一方、話が分かりやすい学生は、背景の説明が絶妙でした。

何を説明すれば相手が状況を理解できるのかをよく分かっていて、必要な情報を過不足なく伝えてくれます。

話が面白いことと、分かりやすいことは、必ずしも同じではありません。

でも、どちらも言葉によって、聞き手の頭の中に何かを生み出しています。

缶蹴りの学生も、最初から面白い経験を持っていました。

ただ、その面白さを伝える言葉が足りなかったのです。

特別な経験をしていなくても、言葉の選び方や伝え方によって、話はぐっと面白くなる。

あの学生とのやり取りは、そのことを教えてくれました。

ここまで、何を話し、何を省くか、どんな順序で伝えるかについて考えてきました。

これは、説明の技術です。

でも、その出発点には、もっと大切なものがあると思います。

それは、相手の立場に立って考えることです。

相手は、この話について何を知っているだろう。

どんな背景を説明すれば、状況を想像できるだろう。

どの具体例を話せば、自分の感じたことが伝わるだろう。

そう考えることは、単なるテクニックではありません。

相手に分かってもらいたいという気持ち、ある意味では、相手への思いやりや親切心から生まれるものではないでしょうか。

自分の思いを一生懸命に語ることは、もちろん大切です。

でも、自分の思いが強いことと、それが相手に伝わることは別です。

自分だけが知っている世界に、相手を置き去りにしない。

相手にもその世界を見てもらえるように、必要な言葉を選び、順序を考える。

伝えることは、自分のことだけでなく、相手のことも考えることなのです。

自分が経験し、感じ、考えてきたことを、等身大の言葉で語る。

ただし、自分の思いを一方的に伝えるのではなく、相手が理解できるように、必要な背景を説明し、具体例を選び、話す順序を考える。

自分の見てきた世界を、相手にもリアルにイメージしてもらう。

そのために言葉を選び、組み立てること。

それが、面接における「言葉のリアリティ」なのではないでしょうか。

次回|第5回 対話の「リアリティ」

想定外の質問をされたときこそ、「あなた」が見える。

面接は、用意した答えを発表する場ではありません。

次回は、目の前の相手と向き合う「対話のリアリティ」について考えます。

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🎓 【本記事の執筆・監修】

  • 代表研究員:元早稲田大学准教授・教育工学博士(米スタンフォード大・オレゴン大修士 / 東工大博士)
  • 顧  問:大学名誉教授(コミュニケーション学専門)

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