推薦入試や総合型選抜に向けた準備が始まると、「自己PRや志望理由書に何を書けばいいのかわからない」と感じる人が少なくありません。
「自分には特別な活動も、目立つ実績もない」
「こんな“ふつう”の生活で書けることなんてあるのかな」
そんなふうに立ち止まってしまう人にこそ、伝えたいことがあります。
「ふつう」を語れる力こそ、大きな強み
芸人さんの話を思い浮かべてみてください。ネタの多くは、電車の中の出来事やコンビニでのやりとりなど、実はとても日常的なことです。でも、その語り方ひとつで、聞く人を引き込み、笑わせ、心を動かしています。
推薦入試や総合型選抜でも同じです。派手な実績がなくても、自分の体験をどう語るか、自分の視点をどう言葉にするかによって、伝わり方は大きく変わります。
つまり、「ふつう」に見える体験でも、それを丁寧に、正直に、自分らしく語る力こそが、最も伝わる自己PRになるのです。
「何もない」ではなく、「まだ言葉にしていないだけ」
“書けない”と感じるとき、多くの場合は「ネタがない」のではなく、日常の中にある体験をまだ言語化していないだけです。
・なぜこの部活を続けたのか?
・友だちのあの一言が、なぜあんなに残っているのか?
・学校行事で、自分はどんな役割をしていたのか?
小さな出来事でも、「なぜ?」と自分に問い直してみることで、その人ならではの物語が立ち上がってきます。
「米をとぐ」話に見る、“ふつう”を語る力
大学で面接指導のワークショップを担当していたときのことです。1000人以上の学生の自己アピールを聞いてきた中で、今も忘れられない男子学生がいます。
その学生は、こう語りました。
「私は毎日、米をとぎます。
大切に育てられてきた米を一粒も流さないよう、丁寧にとぐようにしています。
一つ一つのことに丁寧に向き合う。それが私の長所です。」
驚きました。目立つ実績や特別な活動があるわけではありません。
けれど、この言葉からにじみ出る誠実さや人柄に、私は心をつかまれました。
「この人と一緒に働いてみたい」と、自然に思ったのです。
ふつうの生活の中の、ふつうの行動。
でも、それを自分らしい視点で語れることこそが、“伝わる力”になる──そう強く感じた瞬間でした。
書くことは、「自分を掘る」こと
自己PRやエッセイは、自分をよく見せるための舞台ではありません。
「どんな自分でありたいか」「何を大切にして生きているか」
そういった思いを、自分の言葉でひとつずつ確かめていく作業です。
だからこそ、すごい経験を書く必要はないのです。
小さな問い、小さな気づき、小さな行動の中に、自分らしさは表れます。
それを丁寧に見つけて、丁寧に言葉にしていく。
それが“書く力”であり、自己理解でもあり、ひいては人に伝わる力にもなっていきます。
最後に
推薦入試や総合型選抜で、「書くことがない」と感じている人へ。
本当に“ない”のではなく、まだ気づいていないだけかもしれません。
自分のふつうの中にある、問いや視点を掘り出してみてください。
それが、あなただけの物語のはじまりになるはずです。