はじめに:小論文という言葉を、じっと見つめてみる
「小論文」という言葉を、じっと見つめると少し不思議に感じませんか?
“論文”というのは研究者が書くもの。
では、それに“小”をつける意味は何でしょう?
しかもこの「小論文」という言葉、英語に訳そうとすると実に難しい。
short essay? writing test? composition?
どれもピンときません。
小論文は、日本の教育が生み出した特有の言葉であり、文化そのものなのです。
1.なぜ“小”がつくのか――「短い」だけではない意味
まず、「小論文」の“小”には、二つの意味があります。
ひとつは単純に、「論文ほど長くない」つまり分量の“小”。
大学入試では800〜1000字前後の制限が多く、
限られた字数で自分の考えを筋道立てて書くという訓練の意味があります。
もうひとつの“小”は、**段階の“小”**です。
いきなり研究論文は書けない。
でも、考えを論理的にまとめる練習ならできる。
小論文はその“入口”にあたります。
「作文では感想を、論文では知を、小論文では“考え方”を書く」
つまり“小”とは、「学びの階段の途中」を表す言葉なのです。
短いけれど、深く考える。
それが小論文の本質です。
2.なぜ英語に訳せないのか――“問われたことに答える文化”
では次に、「小論文は英語でなんというのか?」
英語圏には似た形式がいくつかありますが、完全に一致する言葉はありません。
英語の essay は、自分の関心から自由に書くのが基本です。
一方、日本の小論文は、あらかじめ与えられた問いに対して、論理的に答える。
つまり、
- 英語の essay → 「自分で問いを立て、自由に書く文化」
- 日本の小論文 → 「出された問いに、筋道を立てて答える文化」
この違いが、“翻訳できない”理由です。
小論文は、「正解を探す試験」ではなく、
“自分の考えをどう構築するか”を見せる試験。
だからこそ、英語には一語で表せないのです。
それは日本の教育が、長い時間をかけて作り上げた独自の思考文化なのです。
3.「小論文」という発明
小論文という言葉が登場したのは、戦後の教育改革期です。
暗記ではなく“考える力”を評価する入試を目指して、
大学が国語試験に「論述問題」を取り入れたのが始まりでした。
やがて1970〜80年代には、「小論文試験」という名称が入試要項に登場。
論文でも作文でもない――
**“日本の教育のために作られた新しい形式”**として定着しました。
この言葉は、教育史の中で生まれた一つの「発明」なのです。
単なる短い文章ではなく、日本語で“考える”ことを形にした方法。
それが小論文なのです。
おわりに:小論文は、考え方を描く技術
「小論文」という言葉を追っていくと、
日本人が“考えること”をどう教育の中で育てようとしてきたかが見えてきます。
短く書くことよりも、どう考えるかを見せること。
英語に訳せないのは、それが単なる形式ではなく、
日本人の思考と表現のバランスそのものを映しているからです。
小論文とは、知識を書くものではなく、考え方を描く技術。
それこそが、この言葉が今も生き続ける理由なのです。
🔗参考文献
- 加藤重広(2017)『日本語の思考様式と文章構成』ひつじ書房
- 文部科学省(1979〜)『大学入学者選抜実施要項』
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