「えっ、これ信じてたけど…ウソだったの?」
そんな経験、ありませんか?
SNSやネット検索で目にする情報の中には、一見正しそうに見えて、実は間違っていたり、意図的に操作されたものが少なくありません。
でも、それは本当に「だまされた」だけなのでしょうか。
実は、人間の知覚と認知のしくみが大きく関係しています。
1. 知覚と認知のちがい
- 知覚(Perception):五感を通して外の世界を感じ取ること
例)見た、聞いた、読んだ、という感覚的な入力 - 認知(Cognition):知覚した情報を意味づけして理解すること
例)「これはこういう意味だ」と頭で解釈すること
たとえば、赤い太字で「緊急!」と表示された文字を見たとき、「重要だ」「急がなきゃ」と思うのは、知覚と認知が同時に働いているからです。
2. なぜ人は簡単にだまされるのか
人は、情報を受け取るときに以下のような“認知のクセ(バイアス)”を持っています。
- 確証バイアス:自分が信じたい情報だけを集めてしまう(例:SNSで自分と同じ意見ばかり表示されて、「やっぱり自分が正しい」と思ってしまう)
- 初頭効果:最初に見た情報の印象が強く残る(例:会社の面接でも、候補者がドアを開けて椅子に座るまでに合否はほぼ決まっている、らしい)
- 感情の影響:怒りや驚きといった感情が判断力を鈍らせる(例:パニック状態ではデマに振り回されやすい)
このような人間の傾向を利用すれば、あえて「信じこませる」情報を作ることは難しくありません。
つまり、“だまされる”というより、“認知のしくみを利用されている”のです。
つぶやき:大学のコミュニケーション学の授業では、「知覚と認知」について考えるときに、こんなことわざから話を始めることがあります。「百聞は一見に如かず」英語では Seeing is believing(見ることは信じることだ)と訳されます。でも、コミュニケーション学の視点では、これとは逆の考え方も大切にします。それが Believing is seeing(信じることは見ることだ)という発想です。つまり、人間は「自分が意味づけられること」しか知覚できない。
何かの刺激を目にしても、それに意味を与えられなければ、見えていても“見えていない”のです。言い換えれば、人は自分が信じている世界しか見ていない。
だからこそ、同じものを見ていても、全く違う意味を読み取ることがある。誰一人として、「まったく同じ現実」を見ているわけではない。同じ現実をシェアできる相手はいない。そんな、ちょっと切ない事実に気づかされる瞬間でもあります。
3. 探究学習における見極めの視点
探究学習で情報を調べるときには、次のような視点が大切です。
- 誰が言っているのか(専門家かどうか、公的機関かどうか)
- どんな根拠があるか(出典、データ、引用の有無)
- 反対の意見はあるか(一方的すぎないか)
そして何より、「これは本当か?」と一度立ち止まる習慣をつけましょう。
研究者のように、知覚と認知を意識して検証する姿勢が必要です。
4. 情報収集の際に注意したいこと
- 出どころを確認する
公的な機関や専門家からの発信かを見極めましょう。 - 複数の情報源を比較する
ひとつの意見に偏らず、反対意見や中立的な立場にも目を向けることが大切です。 - 情報の新しさに注意する
社会問題や科学の分野では、古い情報は役に立たないこともあります。 - 図やグラフの根拠を見る
見た目が立派でも、出典が示されていなければ信用できません。
5. 生成AIを使うときの注意点
生成AI(ChatGPTなど)を使って調べることも増えていますが、以下のような注意が必要です。
- 回答には事実ではない内容が混じることがあります。
- 出典の確認ができない情報には注意が必要です。
- 「それっぽく見える」だけで誤ったデータや存在しない論文名が出てくる場合もあります。
AIはあくまでも「ヒントを得るツール」として使いましょう。
書いてあることをそのまま使うのではなく、自分で裏付けをとる習慣をつけることが大切です。
6. 情報の裏付けをとるには(ファクトチェック)
たとえば、こんな情報を見かけたとします。
「日本の高校生は、世界で最もスマホ依存が深刻である」
この情報の信ぴょう性を確かめるためには、次のような視点が必要です。
- 調査の出典はどこか?(どの団体が、いつ、どのように)
- 「スマホ依存」の定義は?(明確な基準があるか)
- 比較対象の国や人数は?
- 他に同じ傾向を示すデータがあるか?
7. ファクトチェックの基本的なステップ
- 情報源をたどる
出典が明記されているか、リンク先があるか確認しましょう。 - 他の情報と照らし合わせる
同じ話題について、他のサイトや論文、統計と比較することが大切です。 - 情報の作られ方を考える
数字やグラフも「どのように集めたデータか」を知ることが重要です。
8. 探究活動に活かせる工夫
- 自分でアンケートを実施する
- 専門家や地域の人にインタビューする
- 政府統計や学術論文など、信頼できる一次情報を使う
これらの工夫によって、探究の内容に説得力と深みが生まれます。
9. まとめ
人間は、だまされやすい認知の特徴を持っています。
しかし、それを理解し、自覚し、立ち止まって問い直すことができれば、学びはより深くなります。
探究学習は、「知ること」ではなく、「問い続けること」。
どんな情報にも鵜呑みにせず、「なぜ?」「本当?」と向き合う力を育てていきましょう。
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