なぜ世界は探究学習に取り組むのか? 学びのカタチが変わる、その背景にあるものとは。
いま、世界中の学校で「探究学習」が注目されています。どうして、こんなにも探究に力を入れるようになってきたのでしょうか。その背景には、「学びってなんのためにあるの?」という根本的な問い直しがあります。
知っているだけじゃ足りない?PISAが教えてくれること
OECDという国際機関が行っているPISA(ピサ)というテストでは、単に「知っているかどうか」だけではなく、その知識をどう使えるかが大事にされています。
たとえば、「水不足を解決するにはどうしたらいいか?」というような、正解が1つではない問いにどう向き合うかを見る問題もあります。最近では「創造的に考える力(クリエイティブ・シンキング)」も評価の対象になっています。
OECDが出している「学びの羅針盤2030」では、自分の意志で学び、行動する力(エージェンシー)を大切にしよう、と言っています。
※OECD(経済協力開発機構)は、世界中の教育の質を高めるための調査や提言を行っている国際機関です。
ちなみに、2022年のPISAでは日本の生徒の成績は以下の通りです:
- 数学的リテラシー:OECD加盟国中 1位
- 読解力:2位
- 科学的リテラシー:1位
世界トップクラスの「知識と理解」の力を持つ一方で、今後はそれをどう使いこなすかという「探究する力」がさらに求められています。
国際バカロレア(IB)が目指す学びって?
世界中の学校で導入されている「国際バカロレア(IB)」という教育プログラムでは、「知の理論(TOK)」や「課題論文(EE)」などを通して、自分で問いを立て、調べて、考えて、伝えるという経験をします。
IBでは、「なぜ自分はこの問いを選んだのか?」「どうしてそれが大切だと思うのか?」を深く考えることが求められます。
これはただ正解を見つけるためではなく、自分の考えや価値観を知り、社会とつながるための学びです。
IBのモットー「Think globally, act locally(世界を見て、地域で行動しよう)」には、世界を視野に入れながら、自分の足元から探究する姿勢が込められています。
※国際バカロレア(IB)は、スイス発祥の国際的な教育プログラムで、世界150か国以上の学校で導入されています。多言語・多文化・思考力を重視した教育が特徴です。
日本国内でもIBを導入している高校があり、一部の生徒は東大や海外大学に進学するなど、高い成果を上げています。ただし、IBで学ぶには思考力・英語力・時間管理力などが求められ、個人差が大きいため、支援体制の整備が課題です。
なぜ「問いを立てる力」が必要なのか?
AIが発達する時代になぜ「問いを立てる力」が必要なのか?
AI(人工知能)が発達した現代では、知識を「調べる」「まとめる」「答える」ことは、AIが得意になってきました。
でも、AIには苦手なことがあります。それは、「問いを生み出すこと」です。
AIは、人間が与えた問いにはスムーズに答えてくれますが、「今、何を問うべきか?」「なぜそれを問うのか?」という問いの背景や意味までは、判断できません。
だからこそ、人間にはこんな力がますます大切になります:
- 自分で問いを立てる力
- 社会や身の回りの課題を見つける力
- 自分の関心や価値観から出発する探究心
これは、まさに探究学習が育てようとしている力そのものです。
たとえば、AIに「地球温暖化の原因は?」と聞けば、すぐに情報を出してくれるかもしれません。 でも、「なぜ私はこの問題に関心を持ったのか?」「どんな行動が地域でできるのか?」という問いは、人間の気づきや想像力からしか生まれません。
AIと共に生きるこれからの社会では、「答える力」以上に、「問う力」が大きな意味を持つのです。
AIが進化して、知識を「知っているだけ」ではあまり意味がなくなってきました。むしろ、
- 「どんな問いを持つか」
- 「いろんな視点で考える力」
- 「他の人と協力して問題を解決する力」
といった力が大切にされています。これらは、まさに探究学習で身につく力です。
つまり、探究はこれからの時代の「学びの基本ソフト」になると言えるかもしれません。
日本の学校ではどうだろう?
日本でも「総合的な探究の時間」や「課題研究」など、探究の時間は増えてきました。
でも、「自分で問いを立てること」「失敗しても試してみること」「先が見えなくても進むこと」など、本当の意味での“探究”にはまだまだ課題があります。
日本らしい探究とは?
世界の潮流に学びながらも、日本の教育文化に合った「日本らしい探究」も模索されています。
たとえば:
- 地域とのつながりを重視した「ローカル探究」
- 教科横断ではなく「教科を深く掘り下げる」タイプの探究
- 礼儀や集団の調和を大切にした協働のあり方
など、日本の強みを活かした探究スタイルが考えられます。
「正解を求める」ことに慣れているからこそ、問いに迷ったり、不安を感じたりする生徒も少なくありません。だからこそ、日本の探究では、「安心して問いを立てられる場づくり」がとても大切になるのではないでしょうか。
おわりに:探究は世界の“共通語”
今、世界が探究に向かっているのは、一時的な流行ではなく、生きることそのものが「問いを探す旅」になっているからだと思います。
探究学習は、ゴールを出すための手段ではなく、「どう生きるか」を考えるための姿勢です。
私たちの研究所も、そんな“問いの風”を吹かせていけたらいいなと思います。
参考
- OECD. (2019). OECD Learning Compass 2030
- International Baccalaureate Organization. (2024). What is IB?
- PISA (Programme for International Student Assessment)
- 文部科学省(2024年2月)PISA2022調査結果概要