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探究の出発点:「問いを立てる」から「問いを育てる」へ


探究活動に取り組む高校生のみなさん、そしてその歩みを支える保護者や先生方へ。

今回は「問いを立てること」について、研究をしている立場から少しお話ししたいと思います。

探究の入り口で多くの人がつまずくのが、「問い(リサーチクエスチョン)」を立てること。実は、これは大学の研究者にとっても簡単なことではありません。問いはひらめきではなく、時間をかけて育てていくものだからです。

1. 問いは一瞬で決まらない

研究者の間で、「問いは立てるというより、育てるもの」という言葉がよく使われます。

はじめから明確な問いがある人はごく少数。たいていは、「これってなんだか気になる」「もっと知りたい」と思ったことからスタートして、試行錯誤の中で問いが形になっていきます。

そして重要なのは、「問いは変わってもいい」ということです。最初に思いついた問いが大きすぎたり、ぼんやりしていたりするのは当たり前です。誰に、何を、なぜ知りたいのかを少しずつ明らかにしながら、問いを練り直していきましょう。

つぶやき:研究テーマが広すぎてリサーチクエスチョンが決まらない段階で、資料やデータ集めなどの作業をスタートさせてしまうことがあります。やっていきながら、焦点がどんどん変化し、論文を書く段階になってやっと「この研究のリサーチクエスチョンはこれだ(ったのか)!」とピンとくる、ってことは実はあります。データ分析をしながら「あ、これはリサーチクエスチョンになる!」と発見してしまうこともあります。つまり、得た知見からリサーチクエスチョンを立ち上げる、という流れです。そして、イントロダクションの中で、さもリサーチクエスチョンが最初からあったかのように書くのです。このような経験をした研究者は少なくないと思います。

2. 感情や違和感は、問いのタネ

問いが出てこないとき、頼りになるのが「モヤモヤした気持ち」です。

「なぜか気になる」「なんか変だな」と思ったことは、問いの種になり得ます。たとえば、日常で経験した小さな違和感や不思議に思った出来事が、探究の出発点になります。

「問いがない=ダメ」ではありません。「問いがない」という状態も、問いを探すプロセスの一部です。

3. 計画は“揺れていい”

研究の計画は、予定通りに進まないのが当たり前です。

やってみたらうまくいかなかった、資料が見つからなかった、考えていた方向と違ってきた……それでいいのです。

大切なのは、「うまくいかないことを想定して」計画を立てること。そして、迷ったときには立ち止まり、自分の考えを振り返ってみることです。プランAからプランBに変更して進みましょう!

4. 『The Craft of Research』が教えてくれること

研究の基本的な考え方をわかりやすく説明している本に、Wayne Booth らによる The Craft of Research(2008)があります。本書では、問いと向き合う姿勢について、次のように述べられています。

4.1 研究とは、「問いに答える営み」である

研究は、ただ情報を集める作業ではありません。
「自分は何が知りたいのか?」という問いを立てて、
その答えを自分の言葉で考え、理由を挙げて説明すること。

それが研究の出発点であり、目的です。

著者たちは、「研究とは読者との対話である」とも述べています。
つまり、自分の答えが相手に伝わり、「なるほど」と思ってもらえるように書くことが大切です。

4.2 テーマを問いに変える

まずは、自分が気になるテーマ(たとえば「SNS」「制服」「外国語学習」など)を見つけます。
でも、そこで止まってはいけません。

大事なのは、「それについて、自分は何を知りたいのか?」という問いにすることです。

さらにもう一歩。
問いを立てたら、自分にこう聞いてみてください:

「その問いに答えることで、どんな意味があるのか?」を考えると、研究に深みが出てきます。
このプロセスを通じて、研究の方向性や意義が明確になります。

つぶやき:この「So what?」と何度も聞く作業が実は結構つらいのです。自分の研究(探究)テーマと長期間つきあっていると、なんだかとてもくだらないことを研究している気になるものです。こんなことみんな知ってる、こんなこと誰も興味もたない。。。その弱っている状態で自分に繰り返し問う「だから何?」。そんなときは悲鳴をあげる前に、自分の研究(探究)の意義を客観的に示唆してくれる指導者にぜひ聞いてみてください!「自分の研究(探究)の良い点って何だと思いますか?」と。(良い点についてだけ聞いてください。そこからSo What?へのヒントが出てくることが多いのです。)

4.3 問いを「問題」に育てる

問いは「自分が知りたいこと」ですが、
「問題(プロブレム)」は「他の人にも考える価値があること」
です。

本書では、2種類の問題が紹介されています:

研究が「自分だけの興味」から、「他者と共有できる問題」に変わったとき
読む人の心にも届くものになります。

4.4 まとめ:研究の核は、意味のある問いを立てること

著者たちが伝えたいのは、「よい研究は、よい問いから始まる」ということです。

そしてその問いが、「なぜそれを問うのか」「その答えがなぜ重要か」を説明できるとき、
研究は価値あるもの
になります。

読者に「なるほど、そこを考える意味があるんだな」と思ってもらえること――
それこそが、研究の力なのです。


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